調整不要の入れ歯などありません

「あなたもいつか入れ歯になります」そう言われた時、どんな入れ歯のイメージをするでしょうか?永久歯を一本も失っていない人なら、総入れ歯を思い浮かべるのではないかと思います。

 しかし実際には、ある日いきなり総入れ歯になる人は滅多にいません。なぜなら、歯というのは、一本ずつ歯が抜けていくものだからです。一本抜け、二本抜け、最終的にすべての歯が抜けるのです。それが自然の流れで、事故や病期などの特殊事情が起きない限り、短期間にごっそりと抜けてしまうことはありません。ですから最初の入れ歯は「一本義歯」になります。例えば上の歯が抜けた時は、そこに一本義歯が入ります。しばらくして下の奥歯が抜けたら、そこにも一本義歯が入る。場合によっては、複数の一本義歯が口に入るケースもあります。そしてさらに一本抜ければ二本義歯が口に入るケースもあります。このように、患者さんが歯を失うたびに入れ歯が大きくなっていくのですが、現在通常に行われている歯科治療では、一本抜けると新たにすべてを作り替えています。たとえば、四本義歯を使っている患者さんが新たに歯を失った時、それまでに使っていた四本歯は捨ててしまい、新しく五本義歯を作ることになるのです。

 そうやって作られた入れ歯でも、もちろん使えることは多いでしょう。
しかし、抜けるたびに新しく作っていると、入れ歯にまつわる苦労、リスクはとても大きくなります。別の言い方をすれば、不用意なリスクを負いながら、不必要な苦労をしなければならなくなるのです。どいうことかというと、生まれて初めて永久歯が抜けた場合、抜けたところには一本義歯を入れるわけですが、必ずと言っていいほど口の中に「異物感」が出ます。慣れるまでの期間は人それぞれですが、おおよその目安としては長ければ数ヶ月くらい。それくらい経つと、義歯を意識せずにものを食べられるようになります。慣れるまでの時間が「長ければ数カ月」と聞いて「それは長いな」と感じる人もいるかもしれません。
しかしそういう人には、入れ歯は「義足」と同じ、と考えていたほうが良いでしょう。
歯が抜けるということはそれほど重い事実なのです。そして、調整を軽く考えるのも禁物です。「作って、入れて、おしまい」などという入れ歯は存在しません。どんな入れ歯であっても調整は絶対に必要です。正しい方法で、ていねいに作った入れ歯でも、歯が抜ける以前の状態を100パーセント再現したものではありません。どこかしら不具合が発生しています。これを修正しないまま使い始めれば、さまざまなトラブルが起こる危険があります。一本義歯でも二本義歯でも、調整なしに使うことはできません。

 しかし、時間をかけて噛み合わせや異物感のないように入れ歯に慣れていき、歯茎や口腔内の粘膜、痛みの出る原因をも改善して行き、見た目、審美性、頬や顎や発音までも、さまざまな調整を加えて使いこなせるようになった適合性の高い精密な入れ歯は、自分の歯とほとんど変わりません。